あらゆる業界の組織は、ますます複雑化する規制要件や業界規格に対応する一方で、革新的で高品質な製品の提供を求める圧力の高まりに直面しています。このような環境下で、モデリング(Modeling)とシミュレーション(Simulation)(M&Sとも呼ばれる)は、製品の設計、試験、認証の方法に変化をもたらしています。独立した検証と妥当性確認を経たモデリングおよびシミュレーションは、早期の知見獲得を可能にし、物理的なプロトタイプの必要性を低減して、より一貫性のあるエンジニアリング判断を支援することができます。これにより、メーカーはより迅速に、より確信を持って事業を進めることが可能になります。しかし、モデリングとシミュレーションは実際にはどのようなものなのでしょうか?それらが付加価値をもたらしたり、物理的な試験が依然として不可欠とされているのは、どのような場面なのでしょうか?
モデリングとシミュレーションとは何か?
モデリングとシミュレーションとは、現実世界の製品、システム、プロセス、または現象をデジタル上で再現し、そのモデルを使用してさまざまな条件下での動作を調査する手法です。このアプローチは、仮想プロトタイピングとも呼ばれ、チームが、物理的なプロトタイプを作成する前に設計を評価し、性能を予測することを可能にします。米国国防総省(Department of Defense: DoD)[1]および米国航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration: NASA)[2]では、モデルを「現実の物理的、数学的または論理的な抽象化」と定義し、シミュレーションを「そのモデルの動作を研究するために時間をかけて実行すること」と定義しています。これらの定義は、あらゆるシミュレーション活動におけるコンテキスト、トレーサビリティおよび信頼性の重要性を強調しています。
デジタルツインテクノロジー
デジタルツインは、モデリングとシミュレーションの原則をさらに一歩進めたものです。従来のモデリングとシミュレーションは、「仮定」シナリオを検討するために設計と妥当性確認の際によく使用されますが、デジタルツイン(物理的な製品またはシステムの動的でリアルタイムなデジタル版)は、この機能を運用フェーズにまで拡張します。センサや接続されたデバイスからのライブデータを統合することで、デジタルツインは物理的資産の現在の状態を継続的に反映し、予測的な知見、フリートレベルのモニタリング、性能の最適化、プロアクティブなメンテナンス戦略を実現します。これにより、静的モデルがシミュレーションと予測を行う「生きたシステム」に変換され、組織は製品ライフサイクル全体を通じて複雑性を管理し、信頼性を向上させることが可能となります。
モデルの信頼性を確立することの重要性
製品開発サイクルの短縮、複雑化と小型化の進展、規制要求の高まりにより、予算およびラボラトリーのスケジュールは逼迫しています。設計変更を頻繁に行うと、多くの場合、プロトタイプ数が増え、後期段階での不適合や手戻りのリスクが高くなります。モデリングとシミュレーションは、より早期に、より深く、再現性のある知見を提供することによって、企業がこうした課題に対処できるようにします。しかし、モデルの価値は、その予測の信頼性に左右されます。
設計のトレードオフや障害分析または認証の進行などの意思決定を支援するために、モデルは、説明可能な仮定、追跡可能な入力、およびモデルが表現する物理的現実に対する不確実性を定量化する、適切に設計された妥当性確認試験を必要とします。
特に認証決定の支援に重点を置いた検証(Verification)と妥当性確認(Validation)(V&V)は、このプロセスの中心であり、モデルの信頼性を実証するために不可欠です。
検証では、計算モデルが正しく構築され、適切な物理法則を使用して意図した数式を解いているかどうかを評価します。このステップは、モデル構造およびサブモデルが表現対象の現象に適していることを立証し、既存のデータには適合するかもしれないが、新しい条件下では機能しない可能性があるパラメータ調整への依存を防止します。このモデルは、正しい物理法則を使用する場合にのみ、予測ツールとして使用することができます。
ラボラトリー環境で物理的に実施されるモデル妥当性確認は、物理的試験と同じ条件下でモデルを実行し、その出力を測定データと比較することによって、モデルが現実世界の動作をどの程度再現できているかを評価します。パラメータを微調整してアライメントを改善することは可能ですが、妥当性確認では、こうした調整が妥当な範囲内に収まり、モデルの予測能力を損なわないことを確認します。このプロセスは、モデルが技術的に正確であるだけでなく、その意図された用途に対しても信頼性があることも実証します。
検証と妥当性確認を組み合わせることで、シミュレーションを設計の最適化、コンプライアンス、認証に関する意思決定を支援するツールへと変えることができます。米国食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)[4]、米国航空宇宙局(NASA)[5]、[6]および米国機械学会(American Society of Mechanical Engineers: ASME)[7]のガイダンスおよび規格では、V&Vの重要性と厳密性は、支援対象となる意思決定のリスクと影響に応じて調整されるべきであり、その背景、仮定、および制限事項を明確に文書化すべきであると明記されています。
モデリングとシミュレーションの主な利点
シミュレーションを開発プロセスに組み入れることで、組織は以下を含むいくつかの重要な利点を実現できます:
- 複雑なシステムの理解を深める-シミュレーションは、チームが、実生活ではその関連性を見極めるのが難しい場合でも、製品やシステムの異なる部分がどのように相互作用しているかを把握するのに役立ちます。
- 問題を早期に発見する-組織は、物理的なプロトタイプやツールの構築に投資する前に、アイデアを迅速に試験し、潜在的な問題を見つけることができます。
- 時間とコストを節約する-仮想モデルを使用することで、メーカーは物理的なプロトタイプの必要数を減らし、ラボラトリーでの試験を最も重要な場所に集中させ、開発を迅速化し、コストを削減することができます。
- より確信を持って意思決定を行う-明確な研究計画、感度分析、および追跡可能な比較データにより、組織全体のチームが連携を維持し、情報に基づいた選択を行えるようになります。
- 仮想試験を通じてリスクを軽減する-設計を仮想的に試験することで、チームはリスクを迅速に特定して対処できるようになり、コストのかかる後期段階の変更などの不測の事態が発生する可能性が低下します。
モデリングアプローチの種類
製品の適合性を評価する場合、モデリングアプローチは通常、計算マルチフィジックスモデルと統計モデルまたは機械学習モデルの2つの大きなカテゴリに分類されます。
計算マルチフィジックスモデルは、物理法則に基づいており、数式を使用して、製品またはシステム内の熱伝達、流体の流れ、機械的応力、電磁現象などの複雑な相互作用をシミュレートします。これらのモデルは専用のソフトウェアを使用して構築され、現実世界の挙動を反映するために、正確な物理パラメータと境界条件に依存しています。
統計モデルおよび機械学習モデルはデータ駆動型です。これらは、過去のデータと高度なアルゴリズムを使用してパターンを明らかにし、予測を行ったり、結果を分類したりします。統計アプローチおよび機械学習アプローチは、根底にある物理現象を直接モデル化するのではなく、データから関係性を学習するため、物理的メカニズムが複雑すぎる場合や十分に解明されていない場合に特に有用です。
V&Vは両方のタイプのモデルにとっても不可欠ですが、そのアプローチは異なります。計算マルチフィジックスモデルの場合、検証によって、数学モデルが正しく実装されていることが確認されます。つまり、ソフトウェアが意図したとおりに方程式を解き、数値誤差が最小限に抑えられているかどうかがチェックされます。次に、妥当性確認では、モデルの予測結果を物理的な試験データと比較し、そのモデルが意図する用途に対してシステムを正確に表現していることを確認します。また、これらのモデルは変動する可能性のある入力パラメータに依存しているため、不確実性の定量化も非常に重要です。
統計モデルと機械学習モデルの場合、検証では正しいアルゴリズムの実装とデータ処理に重点が置かれる一方、妥当性確認では独立したデータセットと統計メトリックを使用して予測性能を評価します。また、不確実性は多くの場合、信頼区間やロバスト性チェックを通じて表現されます。どちらのモデリングアプローチも、モデルの検証・妥当性確認が行われたときに、エンジニアリング判断およびコンプライアンスを裏付ける貴重な補足的証拠を提供することができます。
モデルの信頼性は、特定の使用コンテキストに関連付けられ、モデルが情報を提供する対象となる物理的試験と整合した、透明性の高いモデルの検証(Model Verification)および妥当性確認(Validation)プロセス(MV&V)を通じて確立されます。
モデリングとシミュレーションが付加価値をもたらす場面と、物理的試験が引き続き必要とされる場面
モデリングとシミュレーションの利点を最大化するために、組織は、これらのデジタルツールが最も価値をもたらす場面と、物理的試験が依然として不可欠な場面を認識する必要があります。モデリングとシミュレーションは、熱や温度上昇の調査、気流解析、機械的な応答、および性能エンベロープの調査に優れています。ホットスポットでの動作の予測、冷却効果の最適化、製品シリーズ全体における最悪ケースの構成の特定に役立ちます。設計空間のスクリーニングや感度分析は、エンジニアリング判断をさらに支援し、組織がプロトタイプ数を減らし、ラボラトリーでの試験の前に実験計画の策定に役立てることで、最も重要な部分での物理的試験に集中できるようにします。
一部の組織では、ハイブリッドなアプローチが有効です。例えば、火災性状と可燃性に関しては、シミュレーションを通じての調査で熱勾配や囲い込み効果を理解することができますが、コンプライアンス対応のため、適用される法規や規格における適合性試験が依然として必要となります。同様に、不確実な入力を伴う複雑なマルチフィジックスシナリオでは、シミュレーションを使用して潜在的なリスクの外側の限界を定義し、最悪のケースを特定します。しかし、物理的試験を削減するには妥当性確認データと不確実性の定量化が必要です。
一部のコンプライアンス活動は、依然として物理的試験の領域にとどまっています。例えば、電磁両立性(Electromagnetic Compatibility: EMC)、絶縁耐性、短絡および間隔、ならびに実際の製造公差下での長期経年劣化、耐環境性および変動性に関する成文化された適合性試験は、シミュレーションだけでは根本的な劣化メカニズムや分布を完全に捉えることができないため、実証的データを必要とします。
効果を最大化するための試験とシミュレーションの優先順位付け
どこから着手すべきかを決定するときは、時間とコストへの影響に基づいてシミュレーションに優先順位を付けます。短期的な重点項目には、熱・温度試験、機械的(振動)、火災安全、騒音放出および可燃性冷媒漏れの評価が含まれます。将来的な優先事項には、短絡耐性、絶縁耐力、電磁両立性、部品破壊および間隔測定が含まれる可能性があります。これらの活動は以下に適用されます:
- 材料
- コネクター、スイッチ、センサー、ケーブル、電源などのコンポーネント
- 医療機器、産業システム、IT機器、消費財、空調機器などの最終製品
- スマートビルディング、製造環境、データセンターインフラストラクチャなどのエコシステム
あらゆる業界において、当局は、検証済みモデルを全面的な代替ではなく、裏付け証拠として受け入れる傾向が強まっています。そのため、UL Solutionsでは、モデルの検証と妥当性確認(MV&V)を従来の評価と明示的に統合し、デジタルモデルを、物理的試験の回数を減らし、より的確な試験を実施するための手段として位置づけています。
モデル開発からコンプライアンス支援まで:MV&Vプロセス
お客様がデジタルモデルを開発した後、UL Solutionsは、定義された使用コンテキストに対してMV&V を実施することができます。弊社は、対象となる規格に沿った試験計画を作成し、シミュレーション結果を、UL Solutionsの試験所またはData Acceptance Program(DAP)を介して承認された外部試験所で生成された試験データと比較します。その結果として、範囲、データセット、受入基準および不確実性を文書化したMV&V報告書が作成されます。評価担当者は、将来の認定においてこの証拠を参照することができる可能性があります。お客様は、検証済みのサブモデルを製品シリーズやプラットフォーム間で再利用したり、シミュレーションを並行して実行して設計オプションをより迅速に検討したり、ラボラトリーでの試験を最も価値のある領域に集中させたりすることが可能になります。主任エンジニアはシミュレーションが適切であることを確認し、評価担当者はモデルがエンジニアリング判断にどのように寄与するかを決定します。規格上、シミュレーションによる試験の代替がまだ認められていない場合、モデルは必要な試験の代替ではなく、補完の役割を果たします。
モデリングとシミュレーションが今日の認証ワークフローにどのように適合するか
UL Solutionsの評価担当者は、エンジニアリング判断を適用し、以前のデータ(ひいては検証済みシミュレーションの結果)に、提案された構造との十分な関連性と妥当性があるかを判断し、特定の試験を削減または免除できます。信頼性の高いモデルを従来の評価と統合することで、チームは最も付加価値の高い試験に焦点をあてることができます。
ビジネスへの影響:より効率的で確信を持った設計の選択
検証済みデジタルツインは、開発時間の短縮、プロトタイプの削減、および早期のエンジニアリング知見の獲得を可能にし、後期段階での不適合のリスクを軽減するのに役立ちます。これにより、市場投入までの時間の短縮、試験費用の削減、そしてより確信を持った設計の選択につながります。
スピードとコストだけでなく、MV&Vは一貫性の向上にも役立ちます。検証済みモデルで確立された同じ物理法則、境界、および受入基準が類似の設計に適用される場合、評価担当者はポートフォリオ全体でより均一なエンジニアリング判断を下すことができます。
デジタルモデルの検証と妥当性確認の実施
2024年には、UL SolutionsがSiemensのSINAMICS G220可変周波数ドライブに対して、デジタルモデリングとシミュレーションを用いた初の認証を付与し、デジタル認証における画期的な成果が達成されました。[8]検証済みかつ妥当性確認済みのデジタルツインを活用することで、SiemensはUL/IEC 61800-5-1「可変速駆動システム(PDS)— 第5-1部:安全要求事項 — 電気的,熱的及びエネルギー」に関する規格で要求されている臨界温度上昇試験をシミュレーションを通じて実施し、目標とする物理的評価を大幅に削減することができました。
スケーラブルなコンプライアンスを実現する信頼性の高いモデル
追跡可能な入力、文書化された更新履歴、および明確な適用範囲を備えた透明性の高いモデルは、信頼を構築し、再利用を可能にします。範囲、検証データセット、受入基準および不確実性分析などのMV&V成果物により、検証・妥当性確認済みのモデルを使用コンテキスト内で隣接するバリアントに適用し、並列化を通じてスケールできるようになります。
モデリングとシミュレーションが製品開発やコンプライアンス戦略を再構築し続ける中で、V&Vがモデルの信頼性をどのように構築するかを理解することは不可欠です。モデリングとシミュレーションの検証・妥当性確認がお客様のコンプライアンス目標をどのように支援できるかについての詳細は、弊社の専門家にお問い合わせいただくか、「コンプライアンスのためのモデリングとシミュレーションの検証・妥当性確認」のページをご覧ください。
[1]米国国防総省(DoD)。2024。国防総省指令 5000.61「DoD Modeling and Simulation Verification, Validation, and Accreditation」.
[2] 米国航空宇宙局(NASA)。2024。NASA-STD-7009B: Standard for Models and Simulations。
[3]米国機械学会(ASME)。2016。Overview of ASME V&V 20-2009 Standard for Verification and Validation in Computational Fluid Mechanics and Heat Transfer。
[4]米国食品医薬品局(FDA)。2023。ssessing the Credibility of Computational Modeling and Simulation in Medical Device Submissions: Guidance for Industry and Food and Drug Administration Staff。
[5] 米国航空宇宙局(NASA)。2024。NASA-STD-7009B: Standard for Models and Simulations。
[6] 米国航空宇宙局(NASA)。2019。NASA Handbook for Models and Simulations: Implementation Guide for NASA-STD-7009。
[7]Stress Engineering Services Inc. 2022。V&V 40: Computational Modeling for Medical Devices.
[8]UL Solutions。2024。UL Solutions、デジタルモデリングおよびシミュレーションを用いた初の認証をシーメンスに付与.
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